アンドレア・アニエッリの潰えた野望(by kassi)

アンドレア・アニエッリの潰えた野望

ライター:kassi

 

欧州SL構想

4月中旬、欧州サッカー界に激震が走った。レアル・マドリーのペレス会長と我らがアニエッリ会長が中心となって欧州SL構想が突如発表された。

最終的にはプレミア6クラブの離反きっかけにこの構想はわずか3日間でとん挫する事になる。
顛末は皆さんもよくご存じだと思うのでユヴェンティーノの視点から会長のアンドレア・アニエッリが何故このようなクーデターを起こしたのかを考察したい。

 

ユヴェントスの成長戦略

結論から述べるとSL構想はアンドレアが掲げるユーヴェのピッチ外での成長戦略の最後の切り札だったのではないだろうか。

 

サッカークラブの収入現は大きく分けると以下の3つ

・入場料収入
・広告収入(スポンサー、物販)
・放映権収入

ユーヴェが成長戦略としてここ10年で手を打った大きな策は全て上記のいずれかの収入拡大を図ったものだ。(ピッチ内の強化については一度外に置く)以下具体的に上げていこう。

 

・自前のスタジアムの建造、運営

正確にはアンドレアが就任する前から動いていたプロジェクトだったが、イタリアで初の自前スタジアムを建築する事による入場料収入はかつての本拠地デッレ・アルピ時代から3倍程になったという。

 

・革新的なロゴの作成

17‐18シーズンからロゴを新たなものに刷新。ユニフォームからwebまでユーヴェの新たな顔となるロゴを作成し新たなブランディングの柱とした。

 

・スター選手の獲得

ユーヴェは16-17シーズンから補強戦略を一新する。当時ナポリで36得点をあげセリエA最多ゴールを記録したイグアインを9000万€で獲得したのだ。スター選手の獲得はピッチ内だけでなくグッズやユニフォームの販売等、いわゆるマーケティングの恩恵も受けやすい。その集大成がクリスティアーノ・ロナウドの獲得である。フットボール界のアイコンである彼の獲得で世界最高の広告塔を得ることになった。

 

これらの大胆かつ性急な改革の相まってカルチョポリで失われたユーヴェの立場をピッチ上でもピッチ外でも見事に回復してみせた。ちなみに何故ユーヴェがこれほどまでに性急な改革を強いられたかというとカルチョポリで蚊帳の外に置かれている間に欧州サッカーを巡る環境が激変しその流れに必死で食いつく為だったと推測する。

この10年でピッチ内でのユーヴェはスクデット9連覇、CLでは決勝トーナメントの常連に名を連ね順調に成長を重ねているように見えた。

 

 

成長戦略の陰り

順風満帆、そして論理的に見えたユーヴェの成長戦略だが、ピッチ外で想定されていたような成果を上げることはできていない。

放映権料は想定される限界値に達しておりこれ以上の増収は見込めない。(それでもプレミアリーグの中堅クラス)

スター選手獲得の人件費等が膨らみ17‐18シーズンの決算から3期連続の赤字を計上。フリー獲得による選手のサラリー増が主な原因であるが、欧州のトップクラブと獲得競争を制するためには高サラリーの提示は避けられなかったのではないだろうか。

さらにこれまで様々な策を講じたにも係わらず、デトロイトのフットボールマネーリーグでは10位付近を行ったり来たり。欧州のトップとは未だ収入格差は大きかった。

さらに欧州全体の経済不況、若者のフットボール離れ等ユーヴェの周辺環境がさらに成長戦略の妨げとなる。そしてとどめがCOVID19によるパンデミックであった。

現状に限界と焦燥感を抱いたアンドレアはこの状況を打破するべく賭けに出た。それがかねてから構想があったスーパーリーグの設立であったのではないだろうか。

 

 

SL設立の真意

以下アンドレア会長のインタビュー記事を参照しながらその狙いについて考察を深めたい。尚下記インタビューは見出しと内容で時系列が異なっている点は留意したい。(インタビューはプレミア勢離脱の前)

「このプロジェクトはまだ100%成功する可能性がある。我々が行っていることは完全に合法であり、自由を行使している。サッカーは大きな危機にある。若者は他のことに興味を示し、この悲しい現象はパンデミックの影響で加速している。その中で我々が計画しているのは世界最高のコンペティションだ」

サッカーの大きな危機とは何か?この文章だけでは若者離れ、パンデミックによる減収にしか言及されていないが次の発言に注目していただきたい

「我々の目的は、他のクラブに分配される連帯金を大幅に増やし、サッカーのピラミッド全体に利益をもたらすことができる大会を作ること。サッカーはもはやゲームではなく、産業分野であり、安定性が求められる。最も“価値”のある試合はチャンピオンズリーグ決勝ではなく、プレミアリーグに昇格するための2部プレーオフ決勝だ」

この発言に私は深く共感させられた。

ペレス会長の言葉を借りればサッカーは40億人の潜在顧客をもつ一大産業だ。今のサッカー界に持続可能な安定はあるのだろうか?移籍金や選手のサラリーは増加の一途を辿りクラブは莫大な投資を継続していかなければ競争力を維持することが出来ない。しかもFFP順守のためにオーナーのポケットマネーによる赤字補填は禁止されている。

さながら途中下車の許されない片道の特急列車である。

拍車をかけるのが前述の欧州の経済不振(特にイタリア、スペインは顕著)だ。自国の経済状況が如実に影響を与える自国リーグの成績をベースにした現在のフォーマットでは莫大な放映権バブルにわくプレミア勢や安定した経済基盤をもつドイツ勢と争うのには困難である。であればフォーマット自体を改めてしまえばいいとイタリアとスペインの盟主が考えたのは想像に難くない。(そう思うとドイツ勢の不参加とプレミア勢の早期離脱は必然だった)

 

この発言の真意を探るためにもう一つだけ記事を紹介したい。

「一方でローマについて考える。近年、イタリアのランキングをキープするのに貢献してくれたチームだが、1年間酷いシーズンを送ったために出場権を逃した。これにより財政的な面でも影響を受けることになる。投資や経費を保護していく必要もあるのではないだろうか」

この発言はアタランタの躍進を否定するものと捉えられ大きな話題となったがアンドレアが訴えたかったのはこちらが大きいと私は考える。

現行の欧州カップ戦への出場権または昇格降格を前提とした既存のフォーマットに基づく経営の持続可能性や安定性に彼はかねてから危惧していたのではないだろうか。

今シーズンのユーヴェは執筆時点では欧州カップ戦の出場を確定できていない。もし逃すことがあれば経営的な被害は甚大だ。約10年イタリアを牽引してきたクラブがたった1年のミスで全てのプロジェクトの見直しを強いられる現フォーマットがはたして本当に健全といえるのか。この我々が当たり前だと思っていた現在の欧州サッカーを取り巻く環境の困難さは皮肉な事にユーヴェ自身のスポーツ面での不振によって改めて浮き彫りになったのである。

ちなみに引用したアンドレア会長のインタビューは20年に行われたもの。ユーヴェの不振を受けての発言では無いことは述べておきたい。

「スポーツは結果が全てなので成績が落ちればその分のリスクはしょうがない」という意見は確かに正しい。一方でシーズンの結果によってクラブの行く末が毎年左右される環境で中・長期的な視点に立つのは難しい。経営者が安定を求めるのも当然だ。

SLは昇格降格の無いクローズドなリーグというのが多く寄せられる批判だが、アメリカンスポーツや日本のNPBのように昇格降格がないリーグで白熱した戦いを繰り広げているスポーツがある。(逆に米国系オーナーは昇格降格制度をかなり疎ましく思っていたのではないだろうか?)

現にSLはJPモルガンから資金調達に成功。SL発足後に上場済みのクラブの株価は軒並み上昇した。経済市場はSLの構想をある程度評価したのも紛れもないな事実である。

アンドレアとペレス両会長思惑を超好意的に解釈すればはフットボール界に新たな価値観(アメリカンスポーツ的な)を創造し安定した持続可能な成長戦略を描くことだったのではないだろうか。

閉塞感のある欧州の経済や限界をむかえつつある既存のフォーマットを尻目に未だ好調を続けるアメリカ経済や4大スポーツの活況が彼らには理想郷のように思えたのだろう。

 

 

瓦解したSL構想と今後のユーヴェ

私は冒頭で「SL構想はユーヴェの成長戦略の切り札」と考えたが、その切り札が瓦解した今様々な未来が想定される。

現実的なのは拡大路線の見直し。地に足をつけた戦略への回帰だ。

現実味を帯びてきたがCLの出場権を逃せば、減収は避けられないコロナ禍で入場収入が得られない中被害は甚大だ。複数の選手は放出して新たなサイクルを進める段階にある。(その後、4位に滑り込みCL出場権を獲得)

一方で今シーズンのCLの決勝戦のように今後さらに高額な放映権料を背景にしたプレミア勢との差は開く一方になるという懸念がある。今シーズンユーヴェの数少ない収穫となったラビオの移籍先候補にCLの出場権のないエバートンのようなクラブが上がってくるのはセリエAの感覚に慣れている我々からすると異様にも見える。さらに優勝したインテルが得られる放映権料は6500万€と言われているが、プレミアリーグで降格したシェフィールドユナイテッドの放映権は1億€とも言われている。これが残念ながらセリエAとプレミアリーグの差である。

個人的に注目しているのは63%ものユーヴェの株式を保有する親会社エクソールの考え方だ。(アニエッリ家の持株会社なのでほぼ身内なのだが)

アニエッリ家当主のジョン・エルカンが会長をつとめるエクソールも現在拡大路線を継続中。エルカンの意向次第では多額の資金を注入して現路線を継続する事もあり得ると私は考える。(むしろこれまでの戦略もエルカンの意向が入っていたのではないか。)

私自身、ユーヴェのこれまで拡大路線をベースにした現路線には野心を感じ好感を持っていた。これまで述べた背景も相まってSL構想自体も理解を示していたが、旧知の仲であったUEFA会長を裏切った強引ともいえる手法や数日で離脱したプレミアのクラブとの連帯感の弱さ、さらにSLのフォーマット自体の実現可能性等、正直疑問点も多々多い。アニエッリファミリーの純粋なファンである私には非常に残念であった。率直に言えば切り札の切り方を誤ったと思う。

以下はユーヴェからの公式な声明。ESL構想の目的が一部の特権階級のみの利益でなく、下記で引用した観客のための最高のショーや、欧州サッカーの持続可能性を求めたものであって欲しいと切に願うばかりだ。

スーパーリーグは最初からUEFAとの継続的な対話を通し、サッカーへの関心を高めてファンに最高のショーを提供することを目的に、欧州サッカーを取り巻く状況の改善を目指しています。この目的は特に欧州の多くのクラブが現在経験している不安定な経済状況において、持続可能性と結束によって達成される必要があります。

最後に今後のユーヴェについて個人的な思いを語りたい。

すでに述べたように16-17にイグアインとピャニッチを獲得してからビッグネームの獲得が目立つようになり今の路線がスタートしたと認識しているが、保守的なイタリアにおいてこの路線は野心が感じられてとても魅力的に映ったし今でもそう思う。イタリア国内だけでなく欧州のビッグクラブと肩を並べたいというクラブの強い意思が感じられた。

何より感銘を受けたのは、連覇を続ける王者が現状に満足せずに常に変化し続ける姿勢だ。

スタジアムを新築やロゴを一新したり、さらにはクリスティアーノ・ロナウドまで獲得してみせた。この10年のユーヴェの強さは「変化し続けた事」だと思っている。そんなユーヴェのやり方を模倣?したインテルが20-21シーズンのスクデットを獲得したのは何とも皮肉ではないだろうか。

個人的にはクリスティアーノの契約最終年である来シーズンまで現体制を継続、もう1シーズンだけ夢を見てみたい。

CL獲得となれば大団円である。

ダメでも全て終わって総括してまた前に進めばいいと思う。

 

明日は明日の風が吹く

ライター:kassi

Posted by 編集長ミツ