禁断の移籍(by ルイ)



禁断の移籍

【ライター:ルイ】

「恥を知れ」。ユーベ移籍目前のメディカルチェックに向かうキエーザに対して、フィオレンティーナのサポーターから罵声を浴びせられる動画が今でもYouTube上に残っている。

 

罵声の背景には、ユベントスとフィオレンティーナの地理的以外の、因縁がある。スポーツナビの記事によると、発端は1981-82シーズンに遡る。優勝を争っていた両チームは、勝ち点1差で追うフィオレンティーナがゴールを取り消されて引き分け、かたやユーベはPKを獲得して勝利し優勝した。ユーベやミラノの2チームといったスクデットの常連の北部組に対して、劣勢の中南部に位置するフィオレンティーナのサポータにとって優勝を奪われたという思いが今でも続く遺恨につながった。フィレンツェの人々にとって、ユーベへの移籍は「にっくきチームに選手を奪われた」という感情を芽生えさせ、冒頭のような一部罵声につながるのだろう。

 

移籍を巡るフィオレンティーナサポーターの怒りが爆発したのはキエーザが初めてではない。筆者が記憶するところでは、1990年のイタリアワールドカップ直後、エースだったバッジョがユーベに移籍。移籍に反対するフィオレンティーナサポーターの暴動に発展した。ただ自らが望んだ移籍ではないとされ、バッジョはフィオレンティーナとの初対決で、PKを蹴るのを自ら他の選手に譲り、フィレンツェ愛を示している。また現チームでいえば、ベルナルデスキも17年の移籍の際、「Gazzetta dello sport」によると、一部の古巣ファンの批判に対して苦言を呈したことがあった。

ただ、禁断の移籍を果たしたこの2人もユーベ在籍時は決して順風満帆ではなかった。バッジョは94-95年に8年ぶりのスクデットに貢献したものの、シーズン前のアメリカワールドカップの負傷と、筆者と同年生まれで弱冠20歳だったデルピエロの台頭でシーズン終了後にミランへ放出された。在籍はわずか4年だった。ベルナルデスキも在籍年数でバッジョと並んだが、今季は持ち前の攻撃力を活かせるポジションでの起用がめっきり減り、出場時間も日に日に減るなど伸び悩み、移籍の話題がつきまとっている。

 

ちなみに、大きな騒動に発展したという記憶にないが、キエッリーニも2005年にフィオレンティーナからユーベに移籍した。エース級の移籍ではなかったが、2000年台後半のユーベ低迷期でもチームに残り、9連覇の立役者になってその後半はキャプテンを務めるなどユーベで長く活躍している。

 

 

キエーザに話題を戻すと、今期の活躍は文句はないが、まだ23歳で伸びしろは大きいはず。キエッリーニ先輩を見習い、末永くユーベで活躍することを願っている。悲願のチャンピオンズリーグ制覇だけでなく、イタリアを5度目のワールドカップ優勝に導き、フィオレンティーナファンの多くが再び愛す存在になってほしい。

 

【ライター:ルイ】

 

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Posted by 編集長ミツ