【さいちゃの目】アッレグリの論文から考えるピルロ監督に必要な中盤構成



今回は月ユベ執筆チームから「さいちゃさん」の寄稿となります。さいちゃさんの目に「ピルロ監督就任後のユーべ中盤」はどう映るのか。是非、お楽しみ下さい!

 


アッレグリの論文から考えるピルロ監督に必要な中盤構成

チャンピオンズリーグ敗退、サッリ解任、そしてピルロ招聘。怒涛の24時間が経過しオフに突入したわけだが、新シーズンはもう1ヶ月後に迫っている。例年以上に準備期間が限られるなか、バラバラの状態でバトンを託されたピルロはどのようなチームを構成するのであろうか。(シーズンの変わり目であるため19-20シーズンを今季、18-19シーズンを昨季とする。)

 

1. 序文

スクデット獲得とコッパ準優勝、そしてCLベスト16を達成したサッリを解任し、新監督にピルロを招聘したユベントス。結果は出るが内容が伴わないサッカーは今季から始まったことではなく、一昨シーズン終盤には既にその顔を覗かせていた。一部ではロナウドを起用することによりその歪が生じていると叫ばれているが、本当にそうなのだろうか。本テキストでは、現代サッカーにおいて最も重要である中盤の構成力に焦点を当て、その問題についてアッレグリの修士論文を元に分析し、来季の布陣を考察することを目的とした。なお、今回はあくまで攻撃の問題点を考察するため、ロナウドによる歪を解消するための守備戦術は大部分の議論から外すこととする(ボールを握ることが多い現状、守備機会は減少するという考えでもある)。

 

2. 「中盤3選手の特徴」概要

これはアッレグリがUEFAのプロライセンスを取得するにあたり、プログラム修了時に提出した論文の概要である。提出からかなり時間がたっているので少し古い内容になっているかもしれないが、現代サッカーにおいても参考になる部分は多いため、この論文を軸にユベントスの問題点を考察することにした。

この論文での前提条件として、中盤は3人で構成する事とその他のフォーメーションは4バック+3トップ。フォーメーションの特徴として、4-3-3は前線に人を多く・速く送り込めるため攻撃的で、4-2-3-1は攻撃が淡白になるが全体のバランスが安定しているためより守備的。なお、カウンターリスクを抑えつつSBが安全に攻撃参加できるのは後者の方としており、ブロック守備を攻略する際は4-2-3-1が推奨されている。

 

2-1. 中盤3センターの場合(4-3-3) 

アンカーを置き、2人のセンターハーフで脇を固め、前線に枚数の多い攻撃的なこのシステム。

まずアンカー求められるのは守備時の統率力。FW陣のプレスが外された際、敵に抜かれず、攻撃を遅らせること。味方のMFがボールホルダーにプレスをかけた際、その選手が空けたスペースを埋める動きが必要である。次に必要なのが攻撃面。長短のパスを出しゲームメイクを行うテクニックと、常にボールの中継点となれるようマークを外す動き。最後に最も重要なのがカウンター時に起点を作らせないために、中央のエリアを動かないポジショニングと述べられている。

続いてアンカーを支えるセンターハーフについて。4-3-3の場合3トップだけだと攻撃が機能しないため、両CH共に前線に飛び出す運動量とシュート力が求められる。それに加え、1人はドリブルで剥がす能力やラストパスに優れたいわゆる10番タイプが必要。もう片方にはより攻守にわたってチームメイトをサポートする戦術眼とフィジカルの強さが重要とされている。(近年ではプレス強度の進化により、ビルドアップの起点がCB・GKに移行。それに伴い、アンカーには単独でのボール奪取力などを含めた守備強度をより求められている点には留意したい。)

 

 

2-2. ダブルボランチの場合(4-2-3-1)

より守備的な4-2-3-1。4-3-3と比べると単純に前線の枚数が少ない。ここでの両ウイングはサイドハーフとして扱う。ダブルボランチは中央をキープし、攻撃・守備両方において常にボールより後方に留まるべきとしている。ディフェンス時は常にスペース管理を意識し、基本的には遅らせる守備をすること。1人はビルドアップでDFラインをサポートする能力、もう片方は運動量とフィジカルの強さが必要である。トップ下は守備負担が少ない分攻撃的であるべきとされ、求められるのは第一に敵ライン間で動くポジショニングセンス。そしてテクニック、ドリブル、ラストパス、シュート精度、味方を動かすパスとされている。3センターの10番タイプと比べると、より攻撃のスペシャリストである必要があると推察される。

 

3. 過去のユベントスにおける中盤構成の例

9連覇を追いかけてきたユベンティーノにとって具体的にイメージしやすいのが、近年2度CL決勝に進出した年のメンバーであろう。

 

3-1-1. ユベントス(14-15)

まずは3-5-2や4-3-1-2の3センター。アンカーにはピルロを据え10番にはポグバ、逆側のフィジカルと頭脳求められる位置にはビダルを配置した。場合によっては汎用性の高いマルキージオがいずれかのポジションを務めた。

 

3-1-2. ユベントス(16-17)

そしてチンクエステッレ。ダブルボランチにピャニッチとケディラを並べ、トップ下にはそのポジションで世界1.2を争うディバラを配置。また、右SBにアウベスを起用することによって、セットディフェンス攻略時のアイデア不足をカバーしていた。

多少の違いはあるが、近年の優勝チーム(マドリーの黄金期、MSNのバルセロナ、ハインケスバイエルン)はどれもアッレグリ論文に該当する中盤を誇っていた。欧州CLで上位に進出するには少なからず運の要素が絡んでくるとはいえ、中盤の構成力がチームの強さに直結するのが推察される。

 

3-2. アッレグリ政権後半(17-18)以降の停滞感の要因

では2度のCL決勝を経て以降、なぜユベントスは成長を続けられなかったのか。それにはやはり中盤の構成力に問題があったと考える。

17-18シーズン、アウベスの退団もあり4-2-3-1では迫力不足に陥ることとなった。ディバラ頼みのシステムになったため、ディバラ不在時には4-3-3を採用するように変化していく。しかし数シーズンぶりに3センターを使う上で、ユベントスの中盤からは最適な人員が減ってしまっていた。3センターでは最も戦術的で多数のタスクが求められるのがアンカーだが、アッレグリはここにピャニッチを配置。役割分担が明確なダブルボランチではそのパスワークを発揮できいたが、単独でゲームメイクを行うには力量不足であった。アッレグリはピャニッチを加入直後から3-5-2でアンカーにコンバートしているが、このポジションでは能力を最大限発揮し切れていなかったと感じる。そして何より3センター10番タイプの不在。ポグバ以降、このポジションで攻撃に変化を付けられる選手がいないのである。ケディラとマテュイディは攻守において貢献してくれるタイプであり、崩しの面に特化しているわけではない。アッレグリの論文に照らし合わせると、このタイプを同時起用すると相手を剥がして時間を作ったりラストパスを出せる選手がいなくなり、攻撃が機能しなくなる。その後台頭したベンタンクールやラビオも似ているが、どちらかといえば後方でボールを捌きたがるタイプである(適性はダブルボランチ寄り)。今のユベントスに攻撃で違いを作れる3センターの10番は故障癖のあるラムジーただ1人であり、実質不在であった。アッレグリは結局解任されるまで4-3-3を崩すことはなく、サッリも最後まで3センターに固執した。この編成の悪さが、近年の個人技頼みの攻撃につながっていると言っても過言ではない。

 

 

4. 来季の予想フォーメーション

4-1. ピルロが選択するフォーメーションは何か

では監督未経験のピルロはどのような配置を選ぶのであろうか。過去のインタビューなどから志向するサッカー像を推察した。後方からスペースを占有しながらつないでいき、常に数的有利を生むサッカーを目指すこと。フォーメーションは4-3-3が好みだが固執はせず、選手の特徴に合わせて変えることを示唆している。以上のことから戦術はポゼッションを軸に、フォーメーションは現有戦力に依存すると考えられる。

それでは、今季所属選手で中盤の組み合わせを考察していくことにする。チーム構成において大事なのは軸となる選手から逆算すること。その絶対軸となるのは現チームにおいてはロナウドである。2シーズン前に広告塔として獲得したわけだが、その得点力はいまだ健在であり、彼の勝負強さを活かさない手はない。ポジションは左ウイングかセカンドトップであり、その場合布陣は4-3-3か4-4-2になるだろう。SBには攻撃において変化を付けれる選手が不在で、サイドハーフにも本職の選手がいないため、4-4-2を採用すると引いた相手と対戦する際にアイデア不足になる可能性が極めて高い。中盤の人員を振り返るとラビオ、ベンタンクール(攻守に貢献度の高いCH・アンカー・ダブルボランチ)、そして低い位置でゲームを作れるアルトゥール(ビルドアップを担うダブルボランチ・CH)である。中盤の選手適性から考えると、3センターの10番タイプがいないためダブルボランチでいきたいところではあるが、そうなると中盤以外に補強が必要なポジションが多くなる(SB、SH)。どちらのフォーメーションにするにせよCFの補強が必須な以上、やはり4-3-3を採用して10番1人に大金を費やすのが最も合理的であると考える。アンカーには経験のあるベンタンクールを置くしかないが、リスク管理のために中央に留まるポジショニングを学ぶ必要性を感じる。

 

4-2. ディバラの未来は

最後に、4-3-3を採用するにあたり最も割りを食うディバラについて記す。彼は4-2-3-1のトップ下にしか適性がなく、4-3-3を採用して以降は出番が減りつつある。今季から本格的に3トップの真ん中にチャレンジしているが、得点もアシストも個の力で取ったものであり、再現性には乏しい。ディバラとロナウドを共存させるためにはどのポジションがベストであろうか。まずはそのまま偽9番として起用を続けること。守備も考えるとこれが一番無難ではある。次に今季も何試合か採用した右ウイングにコンバートすること。この場合、トップ起用と比べてさらに守備時の献身が必要だ。最後に夢物語となるが、3センターの10番起用を妄想する。もちろん守備ブロックを敷く際、ディバラを可変4-4ブロックの真ん中に組み込むことは不可能である。3センターに採用するのであれば、ロナウドを左SHに回してディバラをトップ下にする4-2-3-1の方が現実的な印象は受ける(ロナウドがそのタスクを容認するかは別問題だが)。しかし、どうしても得点が欲しい場面などで試してみる価値は大きいと思われる。ボール保持を主眼に置く場合、ディフェンスラインを敷いて守備に回る機会を少なくできるので、ある程度の脆さは誤魔化せると考える。ディバラがこの先チームに残るためには彼自身の劇的な変化が求められている。ピルロ監督の元でどのように進化するか期待したい。

 

まとめ

「中盤の構成力はチームの強さに直結する」

これが本テキストで最も伝えたい私の考えである。現ユベントスの人員を活かすには4-3-3が最適であり、そこに足りないピースは”10番タイプ”の中盤である。フロントは今シーズンを反省してか、現在進行形で損切り覚悟の人員整理を進めている。ロナウド獲得に始まった痛みを伴う改革はまだ始まったばかりである。成長を続けるセリエに取り残されないようなユベントスを信じて、今後も応援を続けていたい。(了)

 

<参考資料>
・中盤3選手の特徴、アッレグリ (UEFAホームページリンク切れのため割愛)
・各写真 (ユベントス公式Twitterから引用)
・フォーメーション図 (footballtactics.net いつもお世話になっております)

 


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