Good bye マリオ・マンジュキッチ!
Good bye マリオ・マンジュキッチ!
2017年夏
約10年の時を経て、ユベントスに戻って来たボクの目にひとりの男の姿が焼き付いた。
マリオ・マンジュキッチ
そのひと際大柄な選手は、アッレグリが敷く4-2-3-1システムにおいて‘’左ウィング‘’を任され、攻守に渡り献身的なプレーでチームの勝利に大きく貢献していた。
「随分と大きな選手が中盤を任されているんだな」
そんな風に思った。
しかし、実は彼がこれまで任されていたポジションはセンターフォワードであり、その前のシーズンに‘’セリエA最多得点記録‘’を持つイグアインが加入した事により、生粋のストライカーであるマンジュキッチがサイドハーフにコンバートされた事を、ボクはその後に知った。
そして、彼のプレーを見続ける事で、マンジュキッチにとって「ポジション」などは大きな意味は持たず、もし何かに分類するのであれば『アタッカー』でも『ミッドフィルダー』でもなく、『ファイター』だと言う事を認識するようになった。
とにかくマンジュキッチはピッチの上で誰よりも戦っていた。
ボクがマンジュキッチと共にしたのはわずか2シーズンと短い時間となったが、それでも気持ちの入ったゴールでチームに勝利をもたらせ、そして魂の籠ったプレーでボク達ティフォージを熱狂の渦に巻き込んでくれた。
その中でも忘れられない試合を挙げるとすれば、2017-18シーズンのチャンピオンズリーグ準々決勝のレアル・マドリー戦2ndレグだ。ユベントスはホームで迎えた1stレグを0対3で敗れ、まさに『背水の陣』でサンティアゴ・ベルナベウに向かう事になった。
勝ち抜ける為には3点差をひっくり返さなければならない。
しかも、レアルのホームで。
誰もが夢物語だと笑った。
ユベンティーニでさえ「終わった」と口にした。
『Juventus is over』
SNSにはこんな言葉が溢れ返った。
しかし、キックオフからわずか2分。その声をかき消すかのごとくマンジュキッチがヘディングで先制ゴールを決める。『先制パンチ』。ユベンティーニにわずかながら希望の火が灯った瞬間だった。
そして前半35分。再度マンジュキッチのヘディングが炸裂し、ユベントスは1点差まで迫った。まさしく‘’魂‘’のゴールだった。
残念ながらチームは敗退してしまったが、あの試合の事はいまでも良く覚えている。
マンジュキッチが我々に夢と希望と感動を与えてくれたあの試合を、そしてあのゴールシーンを忘れる事はできない。
その翌シーズンもアッレグリ政権の下、中心選手としてチームの国内リーグ8連覇に貢献したマンジュキッチだったが、迎えた2019-20シーズンに風向きが変わる事になる。新監督に就任したマウリツィオ・サッリの「ポゼッションサッカー」に、マンジュキッチのプレースタイルはフィットせず、ベンチを温める事が多くなった。いや正確に言えば、出場機会を全く与えられなくなってしまった。
そして、2019-20シーズンはわずか「3試合のベンチ入り」の記録を残し、カタールへ旅立つ事になった。
『マンジュキッチは冷遇された』
こんな声を見かける事があるが、ボクはそうは思わない。
彼は彼のプレースタイルで勝負を挑み、そして残念ながらサッリのやり方にはフィットしなかったのだ。決して『冷遇』された訳でもなく、『不当』な扱いをされた訳でもない。これがプロの世界なのである。そして、マンジュキッチ自身も、誰からの慰めの言葉など求めず、そして言い訳のひとつも用意していないはずだ。
それが、マンジュキッチと言う男なのだ。
残念ながらこれからは違う道を歩むことになったしまったけれど、それでもボクの心にはいつまでもマンジュキッチの魂が宿り続けている。
ユベントスを愛し
ユベントスを信じ
そしてユベンティーニに勇気を与えてくれた背番号17
その思いを
その姿勢を
その魂を胸に
ボク達は今シーズンも最後まで戦い続けるだろう。
そして、来年の5月にイスタンブールの地にチームが辿り着いたならば、そこに貴方の背中が見えない事に寂しさを感じ、もしチームがトロフィーを掲げる事が出来たならば、そこに見えない貴方の顔を映し出して感謝の言葉を口にするだろう。
‘’魂の漢‘’マリオ・マンジュキッチ
いままでたくさんの喜びを与えてくれて有難う。
あなたの幸せを祈っている。
Good luck Mario!